職住近接・職住一体の可能性 | 豊かな住環境を取り戻すために職住の関係を考える

建築家 アルヴァ・アアルトのアトリエ兼スタジオ. 自宅からは歩いて10分程度離れた場所にある. 事務所というより家のような雰囲気の空間.

職住近接・職住一体の本当のメリット

職住近接、職住一体の暮らしが、現代において失われてしまった豊かな住環境を取り戻すことにつながるというお話をしたいと思います。

近頃、職住近接、職住一体といった言葉をよく耳にします。コロナの影響でリモートワーク化が急速に広がったことや、フリーランスという働き方の社会的な認知度が上がり、自宅で仕事をする人が増えたということが関係すると思います。

私自身はこれらのライフスタイルの変化はとても良いことだと思っています。ここではその理由について、建築・空間的な視点から少し時間を遡りながら考えていきます。

建てること 住むこと 考えること

ドイツの哲学者ハイデガーの言葉で、1951年のドイツのダルムシュタットで『建てること、住むこと、考えること』という講演を行いました。

住むこと、建てること、を通して人間の存在について考えるという内容で、私たちは住むことについて学ばなければならないという趣旨で話されています。人間の存在というのは少し分かりづらいですが、簡単にいうと人間がどのように自分が生きている意味を見出していくかというような意味になります。

ドイツ語で住むことはWohnen、(建築を)建てることはBauenですが、本来、この2つの言葉の意味は同じでその土地に住み、開拓し、建築を築きあげることといった意味で、人間の存在そのものであったそうです。

昔の人にとっては、『住むこと = 建てること = 生きること』だったのですね。
解りやすい例としては、昔の農家の人を思い浮かべていただけると良いです。
農家の人はその場所に住みながら、畑を耕し、畑で採れたものを食べ、互いの農作物を交換し、地域の人と関係を作りながら子孫を繁栄させ家を大きくしていきました。

アルヴァ・アアルトの自宅, 正面の大きな引き戸を開くとアアルトのアトリエが見える.

住む場所は作るのではなく買うもの

昔に比べ現代では、住むことと、建てることは一致しなくなりました。ほとんどの人は自分の手で家を建てたりはしないでしょう。住宅は買うもの、もしくは借りるものだという考え方が一般的だと思います。そのような状況では、その土地に根付き地域の人と関係を積極的に作っていくという意識は、希薄になるかもしれません。

まちをよく観察してみると、家の庭に花を植えて、毎日きれいに手入れをしている方を見かけます。家庭菜園に勤しんでいる方々もよく見かけます。
季節によって花が咲いたり野菜が採れたり、それはまさに地域の中での自分自身の存在意義の一つになっているように見え、ハイデガーの言葉の住むこと、建てることの実践をおこなっているようにも見えます。

しかしながら、花や庭いじりに興味のない方もいるでしょうし、そもそも持ち家や庭付きの家でなければ、植物を植えることも難しいかもしれません。

働く場所と住む場所が離れてしまった現代

元々は職住はとても近い関係の中で発達してきましたが、近代化により働く場所はオフィスになり、住む場所から遠く離れ、働く場所へは通勤するという習慣が一般的になりました。
平日の昼間はオフィスにいるため住宅街には人が少なくなり、逆に夜のオフィス街には誰もいなくなるという現象が起きています。

同じ場所で効率よく働くために発明されたものですが、通信技術が発達した現代においては、必ずしも同じ場所で同じ時間に、大勢の人が働く必要はなくなりつつある中、今後はますますリモートワーク化が進むのではないでしょうか。

いま一度、豊かな住環境を取り戻すために職住の関係を考える

上記の事を考えると、現代の私たちの生活は昔に比べ便利にはなりましたが、同時に失ってしまった豊かさもあるのではないでしょうか。

その一つの原因は、機能を重視するあまり、全て住むところと働くところなど機能別に空間を分けてしまい、同種のものが集まってしまうことがあると思います。
多くの人は住宅地に住み、オフィス街で仕事をし、ショッピングセンターやデパートで買い物をします。これらは全て同種のものでまとめられた場所で、効率的である一方、予定調和的で退屈に感じることもあると思います。

混ざり合う空間の楽しさ

昔の町屋や商店街のような空間は、仕事(商売)をする空間と、住空間とが混在していました。違うものが混ざり合ったりする方が、偶発的な出会いなどもあり、楽しく豊かな空間になると思います。例えば住宅地の中でも自分の家でお店や、事業、仕事をしたりすると、住んでいるだけでは関わらなかった人との関わりも出てくることになるでしょうし、地域との関わりも変わってきます。

そのような人達が増えると、昼間に私たちが住んでいる場所も良い生き生きとした空間にかわってくるように思います。
コロナ禍においてリモートワークが急速に普及しましたが、リモートワークが普及したことによって移動をしなくても良いという利点以上に、私たちの生活を今一度見つめ直すという機会が出来たと思います。

自分の住んでいる地域、空間に興味を持って頂きより良くしていくきっかけとして、職住一致し、職住近接というテーマに大きな可能性があるのではないでしょうか。

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