ビル再生・リノベーションという選択肢


はじめに

都市におけるビルや商業施設の老朽化が進む中、建て替えではなく「再生=リノベーション」という選択肢が注目されています。資産価値の維持・向上、環境負荷の低減、そして都市の文脈や歴史を活かす手法として、国内外で多様な取り組みがなされるようになりました。

本稿では、リノベーションに取り組もうとするビルオーナーの皆さまに向けて、設計事務所としての視点から、制度・技術・文化的な側面から、国内外の事例とともにその可能性を解説していきます。

1. なぜ今「ビル再生・リノベーション」なのか

資材費高騰と空室率上昇

日本では人口減少に伴い、多くの都市部で既存ビルの空室率が上昇しています。一方で、建築資材費や輸送費、人件費の高騰で新築で建物を建てるには莫大なコストがかかります。またスクラップ&ビルドの考え方が見直されつつある今、既存ストックを活かした再生が経済的・環境的に有効な選択肢となっています。

環境負荷とサステナビリティ

建て替えによるCO₂排出量は非常に大きく、ゼロカーボン時代においては「解体しないこと」自体が環境貢献ともいえます。ヨーロッパではこの意識が早くから根づいており、建築の再利用は「文化的責任」として語られることすらあります。

2. ビル再生・リノベーションに関わる法制度と再生のハードル

検査済証の有無と建築基準法の「既存不適格」問題

既存ビルを再生する際、もっとも大きな課題となるのが、検査済証の有無と「既存不適格建築物」です。
検査済証とは、建築が建築基準法をはじめとする関連法令に適合しているかどうかを証明する書類で、この書類により構造の安全性や耐震性、消防設備の設置などが適切に行われているか確認できます。

既存不適格建築物とは、建物が建設当時の基準では合法でも、その後の法改正により現行法を満たさなくなった状態を指します。たとえば、容積率・斜線制限・避難経路・構造安全性などが挙げられます。既存不適格物建物に該当してしまう場合には、まず建物を現行規定に適合させてから出ないと、増改築をすることはできません。

これらの点がビルを改修する上で非常に重要なポイントとなります。

耐震補強の義務化と実務対応性

これらをすべてクリアにしようとすると、多額の費用がかかり、リノベーションのメリットが薄れてしまうこともあります。とはいえ、「用途変更」や「増築」を伴わない改修であれば、緩和措置が適用される場合もあり、法令の読み解きと専門家との連携が不可欠です。

1981年の新耐震基準以前に建てられたビルは、多くが「旧耐震」に該当し、用途や規模によっては耐震診断や補強が義務付けられます。これを機に大規模なリノベーションへ踏み切る事例も多く見られます。補強方法も多様化しており、外付けのブレースや炭素繊維シート、免震装置の導入など、用途や構造に応じた最適解を選ぶことが重要です。

省エネ・環境性能:ZEB

2025年から住宅・建築物の断熱性能に対する義務化が段階的に進められており、既存ビルにも省エネ性能の確保が求められるようになっています。窓の二重化、外断熱化、設備の高効率化などは、快適性の向上だけでなく、長期的には賃料の維持や資産価値にも寄与します。

3. コンバージョン(用途変更)事例

「用途変更」とは、既存の建物の用途の全部、または一部を別の用途に変更することを言います。
例えば、下記のような事例がそれにあたりますが、用途を変更する場合には、その建物の規模、種類によって建築確認が必要かどうかが変わってきます。特に都市部では、都市部では古いビルや商業施設が増加し、その再活用が求められる場面が増えています。ここでは、コンバージョンに関する基本的な考え方と実際の進め方について詳しく説明します。

オフィス・テナントビル ↔︎ 住宅
オフィスビルを住宅に、また住宅をオフィスや店舗に転換するケースが増加しています。時代の風潮に合わなくなった古いオフィスビルやテナントを住宅に変更したり、反対に住宅をオフィスやテナントスペースとして改修したりする事例もあります。

倉庫 → 商業施設
廃工場や倉庫を、ショッピングモールやレストラン、カフェなどの商業施設に転換する事例もよく見られます。広い空間を活かして、個性的な店舗やイベントスペースを作り出すことができます。

工場 → アートギャラリー/文化施設
元々産業用の建物だったものを、アートギャラリーや博物館、イベントスペースに転用するケースです。広々とした空間と高い天井を活かして、芸術や文化の発信地として新たな役割を果たします。

構造に関係のない壁は全て取り払い、建具で間仕切るフレキシブルなオフィスに変更した.
築40年程の2DKの住居を駅前の好立地を生かしてオフィスにコンバージョン.

4. リノベーションをめぐる日欧比較

ヨーロッパの「文化的再生」としてのリノベーション

ドイツやフランス、北欧では、リノベーションは「都市の記憶をつなぐ文化的行為」として位置づけられています。建物そのものが街の物語を語る存在であり、それを壊すことは、文化の断絶を意味します。特にドイツでは「Denkmalschutz(文化財保護)」制度が確立しており、築100年超の建物がそのままオフィスや集合住宅として現役で活用される例が多く見られます。法的にも保存活用が奨励され、補助金制度も充実しています。

日本における「経済合理性」とのせめぎあい

一方日本では、築年数によって評価がゼロになる会計制度や、金融機関の新築優遇など、リノベーションに不利な構造がいまだ根強く残っています。ただし近年は空きビル対策、カーボンニュートラル政策との整合から、「使い続ける建築」へのシフトが進みつつあります。

5. リノベーションを成功させるためのステップ

① 状況調査・インスペクション

まず、建物の構造・設備・法的適合状況などを調査します。これは診療でいえば「初診」ともいえる工程で、ここを曖昧にしたまま計画を進めると、後から重大な不適合が発覚し、大幅な設計変更やコスト増につながるリスクがあります。

② コンセプトの明確化

「誰に、どんな体験を提供する空間にするのか?」という問いは、技術以前の最も重要な設計要件です。ビルの立地や歴史性、まちとの関係性を読み解き、単なる機能更新ではなく、空間の「意味」を再構築することが成功の鍵となります。

③ 設計・法適合・補助金申請

建築基準法の他、消防法、用途地域制限、バリアフリー法、省エネ基準などの適合確認が必要です。また国や自治体による補助金・税制優遇措置(耐震改修促進法、長寿命化改修支援等)を活用することで、費用負担を軽減できます。

古民家のリノベーション事例として、実際の古民家再生プロジェクトを紹介します。例えば、築100年以上の古民家を再生し、現代的な快適さを取り入れた事例などがあります。ビフォーアフターの写真や施主の声を交えることで、読者に具体的なイメージを持ってもらうことができます。


6. ビル再生・リノベーションの魅力と可能性

本稿では、ビル再生・リノベーションの現状と展望について、制度・技術・文化の視点から掘り下げてきました。日本でも「長く使い続ける建築」の必要性が高まる中で、オーナーの皆様が再生の可能性に希望と確信をもって取り組まれることを願っています。

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