建築家との家づくりの流れ | 土地・物件探しから引き渡しまで

家づくりは、土地や建物を購入するために数千万、またはそれ以上の出費を伴う大きな買い物です。
多くの人にとって、家づくりという人生最大の買い物をする経験は初めてで、いざ買い物をする段階になって専門家に教わりながら進めていくことが通常です。

しかしながら、そのプロセスはとても複雑で、初めての人にはわからない事も多く、不安やストレスを抱えることが多いと聞きます。
私自身も建て主が不安を抱えながら建物の完成を待つ姿を何度も見てきました。

土地の良し悪しや、不動産の価格相場、土地・物件が決まったら次は住宅ローンの選定や返済計画、建物の築年数や耐震性、契約内容について等々。建物の設計の段階に入ると、間取りや使い勝手、建設コストとのバランスを考え、また工事段階でも様々な状況の変化により、その度に最適な決断をしなければなりません。

想像しただけでも分からないことだらけで、不安で一杯だと思います。

家づくりをサポートし、建て主と並走する建築家

建て主 (住宅を建てたいと依頼する人)は、不動産会社や工務店、ハウスメーカーや、税理士、金融機関など専門窓口に相談しに行かなければなりません。
それぞれの専門家は特定の分野においては専門であり、その分野ではプロとしての仕事をしてくれますが、全ての工程に関わるわけではなく、また全体を通して全てサポートしてくれるわけではありません。
それぞれの専門家のサポート範囲は決まっているので、その繋ぎ役や全体を通しての判断は、専門知識のない建て主自身が行う必要があり、慣れない中での作業で非常にストレスを感じることが多いです。

そこで、家づくりの初めから最後まで、建築家(設計者)にサポートしてもらうことを提案します。
建築家は設計の専門家ですが、まず「どう暮らしたいか」というビジョンの部分は、空間の作り方に密接に結びついています。
ビジョンを一緒に考え、それ実現できそうな土地・物件を探すことで、無駄なく理想的な住まいを作ることができます。
「建築家」は「クライアント」と「不動産屋さん」の繋ぎ役になってくれます。

次に、家づくりの初め方から完成までを6つのステップに分けて説明していきます。
それぞれの段階でどのような専門家が入り、また建築家がどういった立場で助けになるかを説明していきます。

ル・コルビュジエが両親にために土地探しから初めて設計した平屋の住宅「レマン湖畔の小さな家」

1. 家づくりのビジョンを考える

1-1 暮らしのイメージを膨らませる

今後の生活や今後のライフプラン、住む場所や家のイメージを固める段階になります。
ライフプランとは、具体的には将来の夢や、結婚、子育て、仕事のキャリア形成や趣味、介護や相続まで将来起こるであろうイベントについて考える人それぞれの価値観に基づく生き方や目標のことです。

ライフイベント表を作成し、5年後、10年後などこの先の家族の変化を予想される事柄を書き出します。
ライフイベントとそれに関わる支出が必要な時期を明確にした上で、それを設計者と共有し、必要な空間の広さや、要望などをまとめてていく手掛かりとします。

1-2 戸建て or 集合住宅、新築 or 改修

  • 一言に家づくりと言っても、新築 or 中古を購入し改修して住む
  • 戸建て or 集合住宅
  • 所有 or 賃貸

など選択肢は多数あります。一般的に中古を改修して住む方法は新築を立てるより総予算としては抑えられますが、改修を選択することによる制限やリスクもあるので、その辺りを十分に理解しておく必要があります。

気に入った物件があった場合には、購入前に設計者にその物件を見てもらい、イメージする生活像とその物件との齟齬がないかを第3者目線で確認してもらうのが良いと思います。

1-3 スケジュール

いつまでに新しい暮らしを始めたいのか、お子さんの就学の時期との関係などを考慮し、大まかなスケジュールを決めていきます。
完成目標時期が決まったら、完成時期からスケジュールを逆追いすることで、設計期間、工事期間を考慮した上で、いつまでに売買契約を締結し、ローン申込みの時期はいつかすべきかなど想定をすることができます。

2. ファイナンス

2-1 家づくりの資金計画

家づくりには、土地代や建物本体の費用である本体工事費以外に、外構費などの付帯工事費、設計料(通常工事費の10〜15%程度)、税金(印紙税、登録免許税、不動産取得税、固定資産税、都市計画税など)や引越しにかかる費用などもあります。

本体工事費は面積や間取り、グレード、また地域によっても異なります。
国土交通省が行った「令和元年度住宅市場動向調査」によると、注文住宅で土地も同時に購入した場合の建築費用は約4,615万円、建て替え(土地はすでに取得済み)の場合の建築費用は平均3,555万円、自己資金比率は前者が27.2%、後者が48.5%でした。
付帯工事や設計料を除いた本体工事費から工事費単価を算出すると、約22.5万円/㎡ (75万/坪)であることがわかります。

2-2 住宅ローン

住宅ローンは、金利や返済期間・方法などによって月々の返済額だけでなく、返済総額も大きく異なってきます。
ローンも財形住宅融資やフラット35、民間融資など種類も色々あります。

住宅金融支援機構や、各銀行のホームページ上で公開している住宅ローンシミュレーションを利用し、返済額や借り入れ可能額を簡単に算出することができます。

この段階でも、設計者が何も関係がない訳ではなく、住宅ローンの事前審査のために、住まいのイメージと予算を建て主側と設計側で内容を確認した上で資金計画を立てることが重要です。

3. 土地・物件探し

3-1 周辺状況の調査

土地・物件探しは不動産会社と仲介契約を結び物件情報をもらいます。
最寄駅やバス停から現地まで自分で歩くことにより、電車やバスの本数、乗り換えの移動距離、駅周辺の雰囲気の確認することができます。

3-2 土地・物件情報の調査

日照、通風、水捌けなどの状況や道路や隣地との接し方、給排水などの設備状況を調べたり、土地の履歴、地盤調査など多くのことを確認する必要があり、素人が全てを把握するのは難しいです。
信頼できる設計者に、プロの目で確認してもらえると、希望するプランが実現できるかどうかのアドバイスをもらうことができます。

一見、あまり良くない印象の土地や物件でも、設計者のアイデア次第で条件が変わり、これまで見えていなかった大きな可能性が開けることもあります。パッと見の印象や、不動産屋さんのコメントだけで決めるのではなく、必ず設計者の意見も聞くようにしましょう。

ル・コルビュジエは、レマン湖の先にアルプスを臨む、この上ない素晴らしい立地を両親のための敷地として選んだ

4. 建物の設計

4-1 企画設計・概算見積もり

土地・物件が決まり、資金計画にも目処がついたら、次はいよいよ具体的な家づくりの設計のフェーズに入っていきます。
要望書(ヒアリングシートを用いて、暮らしたいイメージなどの家づくりの要望を伝えます。

従来の流れであれば建築家(設計者)の業務はこの段階から始まりますが、今回紹介している、家づくりの初めから建築家が関わるフローでは、既に建築家が建て主のことを良く理解しているので、非常にスムーズに建物の設計へと進むことができます。
その上で、敷地の現状を調査し法規を確認し、様々な条件の中でどのような建物を建てることができるのか、その可能性を検討します。
平面図やCGパースなどを作成し検討していきます。

4-2 基本設計

敷地条件や関連法規など確認の上、建物の基本的な形を決めるプロセスに入ります
打合せを重ね、暮らしのイメージから建物配置やプラン、照明計画、設備計画、収納や素材などを確認、検討していきます。
設計事務所に設計を頼んでいる場合は、図面だけでなく、高精度のCGや模型を使った提案をしてもらえると思いますので、実際の建物のイメージを確認しながらご検討を進めていくことが出来ます。

4-3 実施設計・確認申請・見積もり

プランの詳細が固まってきたら、詳細などの検討や細かな仕様などを決定していきます。
具体的には外装材や内装材、設備の性能機能などを決定していきます。

建築家は実施設計という段階で、基本設計の内容をより詳細に決めていきます。内装や設備、仕上げ材などの選定や、電気や水道などの配管計画などがおこなわれます。この段階で、建築家は施主の意向を反映しながら、建物の性能やコストなどを最適化することが求められます。

実施設計図ができた段階で工事会社に見積もりを取ります。
また建築確認申請のための関係官庁や確認申請機関などとの協議を行います。

5. 工事着工

建築確認申請が下り、予算の折り合いがついたら施工会社と契約し、いよいよ工事着工です。
工事着工前には近隣へのあいさつ回りや地鎮祭などがおこなわれます。
着工後は基礎工事・木工事・設備工事・内装工事などが順次進められます。この間、建築家は現場監理という役割で定期的に現場を巡回し、施工会社の作業状況や品質管理をチェックします。

建て主も現場を都度、確認できますが、基本的には専門家である建築家からのその報告を通して、工事が問題なく進んでいるかを確認しましょう。現場での変更で、契約金額からの増減が出ないか注意が必要です。

6. 完成・引き渡し・運用

全ての工事が終了したら、引き渡し前に、建て主は工事監理者(設計者)と共に竣工検査を行います。
施工会社かからの説明を受けながら、仕上げの状態やドア、引き戸の開閉状況、設備機器の設置の確認などを行なっていきます。
建物の完成度や不具合の有無を確認します。竣工検査では施主も立ち会い、建築家や施工会社と一緒に建物をチェックします。不具合が見つかった場合は修正してもらいます。

また、建築基準法状の完了検査を受ける必要もあります。完了検査に問題がなければ検査済証が発行されます。

完了検査は、住宅などの建築工事が終了した時点で行われ、建築物が敷地・構造・建築設備に関する法令に適合している場合に交付されます。完了検査に合格し、検査済証の交付を受けるまでは、その建築物を使用することはできません。
なお、検査済証は、将来、家の売却やリフォーム等の際に必要になることもあるので、大切に保管しておくことが大切です。

竣工検査で問題がなければ引き渡しです。引き渡しでは鍵や保証書などを受け取ります。また、建築家から住まい方のアドバイスやアフターサービスの内容などを説明してもらいます。

レマン湖側に空けられた風景を切り取る水平連続窓

最後に、大きな出費を伴う重要な決断をしなければならない家づくりにおいて、一番大切なものはどのように住みたいのか、家づくりを通して実現したいものは何かを、明確にするビジョン作りだと思います。

そして、そのビジョンを実現できるかどうかは、その場所や空間によって大きく左右されます。
とても高い専門性が要求される部分でもありますので、信頼のおける設計者と共にそのビジョンを考え、それに合った土地、物件を一緒に探すというのが、理想とするビジョンを実現する一番の方法ではないでしょうか。

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